マーケティングという言葉をどう定義するかについては、さまざまな意見があります。
その中でも比較的とっつきやすく平易な説明としてよく見かけるのが、「マーケティングは商品(有形無形問わず)が売れる仕組みをつくること」というものではないでしょうか。
長引く経済の伸び悩み、少子高齢化・人口減少からくる市場の縮小、価値観の多様化などから、現代は以前と比べると “商品が売れない時代”だと言われます。
そうした時代にあって、企業はどのようにマーケティングに取り組み、売れる仕組みを作っていったらよいのでしょうか?
そのための方法の一つとして、マーケティングへの全社的な取り組みが重要視されています。
企業全体でマーケティングに取り組むべき理由は何か?
そして、そうすることでどんなメリットがあるのか?
今回はその二点について解説していきます。
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目次
なぜ全社でマーケティングに取り組むべきなのか?
かつてマーケティングへの取り組みとして、多くの企業がマーケティング専門の部署や部隊を置いていました。
彼らが商品の企画・開発から販売後までの戦略を練り、マーケティングに関する一切を取り仕切る。
そしてそれ以外の部門は、マーケティング部門の策定した戦略に従って自分たちの役割を果たす。
そんな図式でした。
ですが今日では、マーケティングについて特定の部門に任せきりにするのではなく、社内の全部門で関わっていく必要があると言われています。
もちろん、従来型のマーケティング戦略でも全社的な関与はありました。
ですがそれは、マーケティング部門が考えたプランに従っていただけとも言えます。
近年求められているのは、各部門による自発的なマーケティングへの関与や取り組みです。
その理由には、
- 生活者の価値観の変化
- インターネット・スマートフォンの普及
- “社会をより良く変える”企業への期待の高まり
から、ブランディングの重要性が増したことが挙げられます。
ブランディングとマーケティング
ブランディングはブランドマーケティングとも呼ばれます。
自分たちのブランドを確立し、できるだけ多くの生活者に共感や感情移入をしてもらい、その価値を高めることを目的の一つとするマーケティング手法です。
(ブランドについてはさまざまな解釈がありますが、ここでは羽田康祐氏による「生活者から見て独自の役割を持ち」「生活者の感情移入が伴ったモノやサービス」のことという定義を基に考えていきます。)
高いブランド価値を持ち、優れたブランド体験を生活者に提供できる企業には、リピーターや熱心なファンであるロイヤル顧客が付きやすくなります。
“商品が売れない時代”であっても、自社を選んでくれる生活者を増やせるわけです。
高いブランド価値というと、なんとなく高価格商品を連想する方もいるでしょう。
たしかに多くのロイヤル顧客を持つブランドであれば、価格競争とは無縁でいられるという一面はあります。
ですがその価値は、値付けの高さによって得られたわけではありません。
より強い思い入れや共感・愛着を生活者に抱かせることができてこそ、ブランド価値が高まるのです。
こうしたブランド価値やブランド体験が重視されるようになった背景を、先ほど挙げた三つの理由から考えてみましょう。
生活者の価値観の変化
現在においては、モノ消費よりもコト消費を重視する生活者が増えたと言われます。
商品そのものの所有よりも、商品によって得られる体験や経験に価値を見出す人たちです。
生活者の多くは、より心を満たしてくれる商品を求めています。
高性能・高品質である、ということは心を満たす条件の一つにはなり得ますが、それだけで十分とは言えないのです。
インターネット・スマートフォンの普及
インターネットと、いつでもそこに接続できるスマートフォンの普及により、企業と生活者のコンタクトポイントは以前とは比べ物にならないほどに増加しました。
そのいずれのコンタクトポイントにおいても同質の体験を提供できれば、生活者からブランドを認識され、大量に飛び交う情報の中に埋もれることを防げます。
さらに現代ではソーシャルメディアを通じて、さまざまな情報が一瞬のうちに共有されます。
企業が生活者に誠実さをもって接し(クレーム対応に限らず)、好感度の高いブランド体験を提供できれば、多くの心強い味方を得るでしょう。
その逆は……言うまでもありません。
“社会をより良く変える”企業への期待の高まり
SDGsやCSV経営、CSR活動など、社会のニーズや問題に取り組む企業への注目が高まっています。
2021年、米国の経営学者フィリップ・コトラーたちによって提唱されたマーケティング5.0の中でも、企業には「持続可能な開発目標(SDGs)」に率先して取り組み、人々を導いていく役割が求められています。
そうした企業によるブランド体験は、“社会をより良く変えようとする取り組み”へと参加する連帯感を、生活者に与えることができます。
繰り返しになりますがブランディングは役割分担型ではなく、あらゆるセクションを巻き込む部門横断型で進めていくべきです。
コンタクトポイントごとにブランド体験がまちまちだったとしたら、生活者からの信頼は薄らいでしまうでしょう。
また、ブランディングはマーケティングとも密接に関係しています。
ブランド価値を生活者にどう伝えるか?どう経験してもらうか?
そうしたアプローチをはじめとして、マーケティングの考え方や手法が必要になる局面は多くあります。
少なくとも基本的な知識は押さえておきたいものです。
ブランディング・マーケティングに取り組むメリット
では、全社を挙げてブランディングとマーケティングに取り組んでいくことで、企業にどのようなメリットがもたらされるでしょうか。
企業全体では、以下の三つが考えられます。
1.目的意識と手段が共有できる
自社の商品・サービスで生活者に何をもたらし、世の中にどう貢献したいのかという理念の共有により、皆が同じ方向を向くことができます。
マーケティングの方法論が共通言語になるので、異なる部署間であってもコミュニケーションがスムーズになります。
2.従業員エンゲージメントが向上する
ブランド理念に共感できれば、従業員は自社に対してより愛着や信頼を感じるようになります。
組織に貢献しようという意識や、主体的・自発的な行動により、パフォーマンスの向上が期待できます。
3.社外へのブランディングの基礎ができる
目的意識を共有した従業員たちが、積極的にブランド価値を高めようとしている状態であれば、自然と商品・サービスの質が高まっていきます。
やる気にあふれた従業員や、活気に満ちた企業の様子は、生活者から見ても好ましいものとして映るはずです。
部門別に考える「ブランディング・マーケティングに取り組むメリット」
さらにそれぞれの部門に即した、さまざまな利点も生まれます。
代表的な利点について、部門ごとに説明していきましょう。
接客・販売
クレームや問い合わせへの対応を行うカスタマーサポートも含め、コンタクトポイントの最前線です。
完璧な接客・対応マニュアルを作ったとしても、その内容で処理しきれない事態は必ず起こります。
そうしたときでもブランド理念を理解している従業員なら、顧客や生活者の要望を正しく把握し、適切に対応できるはずです。
最前線においてイメージにふさわしい振る舞いを見せることは、同時にブランド価値の発信にもなります。
広告・宣伝
ブランドイメージにそぐわなかったり、損なったりするようなプロモーションを展開するのを防ぎます。
また、マスメディア一辺倒ではなくなった今日では、生活者へのアプローチ経路は多岐にわたります。
大量の情報が飛び交うネット社会では、従来の広告手法が効果を発揮しづらくなっていることもあります。
どういったルートで、どのようなブランド体験をしてもらうか。
ブランド理念についての日ごろの考察が、最適解を導き出す助けになるはずです。
企画・開発
価値観の変化(モノ消費→コト消費)を理解することで、機能的価値だけにとらわれない商品・サービスの創出につながります。
コト消費の時代にあっては、生活者に購入してもらうことがゴールではありません。商品・サービスを利用した人にどんな体験を提供するのか、といった視点が必要になります。
生活者によりよいブランド体験を届けるには?といった発想からの企画案は、コト消費の時代に即したプロダクトを生み出すことでしょう。
営業
自分たちの商品・サービスの魅力を理解するのは営業職の基本ですが、ブランディングでもそれは変わりません。
ブランド理念を熟知することは、効率的な営業活動につながります。
自分たちのブランドが、どういった価値を生活者に提供しようとしているか。
その問いを突き詰めていけば、どこに潜在顧客がいるのかという見当が付けやすくなります。
どのように営業するかという戦略もおのずと導き出されてくるはずです。
手あたり次第に売り込みをかける必要はなくなります。
人事
学生や求職者が、自社の追求するブランド理念を理解しているか?その実践に適した人物か?という観点を含めた採用活動により、ミスマッチが起こりにくくなります。
結果として離職率の低下につながるでしょう。
企業がすべての希望者を採用することは現実的ではありません。
ですが、採用活動を通じて彼ら彼女らに自社のブランド価値や理念に共感してもらえたなら、採用に至らなかった人材も、将来の顧客や取引先になってくれる可能性があります。
そして、高いブランド価値を持つ企業であれば、優秀な人材が集まりやすくなるのは言うまでもありません。
製造
製造業で、技術力に定評がある企業であれば、それはブランド価値を高めるのに役立つでしょう。
独自の技術や設備をプロモーションすることで、潜在顧客の獲得につながる可能性があります。
仮に特筆すべき技術力がなかったとしても、コト消費の時代にあってより重視されるのは生活者のブランド体験です。
ブランディングの考え方を理解することで、生活者の心を満たす製品が現場から生まれてくるかもしれません。
全社的マーケティング教育には、経営者のリーダシップが欠かせない
企業全体でマーケティングやブランディングに取り組む理由と、そのメリットについて解説してきました。
自分たちの製品やサービスを(あるいは企業そのものを)、どのようなブランドに育てていくのかについては、経営トップ層の判断や展望が欠かせません。
そういった意味では小回りの利く中小企業のほうが、ブランディング・マーケティングに取り組みやすいと言えるでしょう。
もしあなたが経営に関与していない立場なら、まずは経営者に協力してもらうよう、説得するところから始めるといいかもしれません。
(経営者が先頭に立ってくれるなら、それが一番ですが)
いずれにしても自社製品やサービスを愛し、誇りに思う気持ちこそが、生活者に共感・愛着を抱かせるブランドを生む礎になります。
自社製品・サービスへの熱い想いをお持ちの方、あるいは世の中に訴えたい理想をお持ちの方は、ブランディングにつながる全社的なマーケティング教育に取り組んでみてはいかがでしょうか。
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